日本のダルメシアンにおける銅関連性肝炎について

 2021年6月より、当犬舎の繁殖犬ではない別々のことろから、若年で銅関連性肝炎を発症したダルメシアンの報告が立て続けに入ってきました。そのうち一件の治療に関するサポートし始めて現在に至りますが、その間も発症が後を絶たず、死亡例も出てきている状態です。すでにこの疾患の症例について論文を発表されていた、山口大学共同獣医学部の研究に協力し、この一年で日本国内の多くのダルメシアンの情報を集めてきました。

 リサーチを続ける中で、この疾患が日本の飼い主さんの間ではほとんど知られておらず、獣医師も立ち合い件数が少ないために本格的な治療に結びつかないケースがあるということが分かってきました。またSNS上で間違った解釈も見られるようになってきたことにも危機感を感じています。

 ハッピーエンジェルヒルズのホームページ上で銅関連性肝炎のことを取り上げるべきか悩んでいましたが、今なお死亡例が後を絶たず、検索しても情報が出てこない状況にあることを鑑み、ページの作成に踏み切ることにしました。

 ダルメシアンが大好きな皆さんの知識の一つとして、正しくお役立ていただけることを願っています。誹謗中傷で誰かを傷つけたり、一部を切り取り(画像スクショ含む)間違った情報として吹聴することは一切許容しません。そんなくだらないことのために、この病気で亡くなっていった犬たちを利用しないでください。

ダルメシアンが大好きな皆さんの良識ある行動を望みます。

 

このホームページ内すべての記事や画像の無断転載(コピペ、スクショ含む)を禁じます。

©2013 Sally Takahashi

 

<銅関連性肝炎とは>

 銅関連性肝炎は、銅蓄積症、銅蓄積肝障害などと呼ばれ、英語では主にCopper Storage Diseaseと表記されています。

 

 銅関連性肝炎は、犬の肝臓に何らかの異常が生じ、本来自然に排出されるはずの銅が肝臓に蓄積され続け、臓器に深刻な損傷を与え最終的に重篤な肝硬変を引き起こし、治療が遅れると死亡するおそれがある病気で、1歳半ごろから症状が現れるという非常に若年で発症することも特徴の一つです。原発性疾患であり、遺伝的に銅の代謝に異常をきたしてしまうために引き起こされている可能性があります。現時点で、この疾患を引き起こす遺伝子は特定されておらず、商業的な遺伝子検査を行うことはできません。しかし、発症した個体の血統を照らし合わせていくと、同胎(同じ時に生まれた兄弟)内と、同じ祖先をもつ血統内で発症していることが明らかになっています(※1ご参照ください)。

 確実な診断のためには開腹または腹腔鏡手術による肝生検を行い、銅を定量化しなくてはいけません。しかし日本の発症例では、血中の銅濃度の測定値からも異常に高いレベルの銅の検出が確認されたことで、治療につながるケースもありました。

 

<症状>

 銅関連性肝炎は、初期段階では明らかな症状が出てきません。それがこの病気の怖いところだと思います。とてもありがちな症状ばかりですが、私の知るケースでは消化器症状を呈していることは共通しています。

 以下のような症状が出てきたらできるだけ早く獣医師に相談してください。

 

食欲不振、体重減少、異常な多飲多尿、嘔吐、下痢、ぐったりして元気がない、脱水、皮膚や目の黄変

 

 聞き取り調査によると、慢性的な下痢が続いていたり、バケツ一杯の大量の水を一気に飲んでいる(結石にはいいことだと思い、飼い主も気に留めないことも)ようなことから始まることもあります。そしてある日突然ご飯を食べなくなりぐったりしたところで初めて動物病院に受診するというパターンです。

 ダルメシアンがご飯食べないという時点でもう、普通じゃありません!

 様子見をせず、すぐにフルコースの血液検査、臓器のエコーをしてください。血液検査で、腎機能など他は悪くないのに、肝酵素の数値だけが異常に高いことがこの疾患の特徴でもあります。肝酵素というのは、血液検査の項目のALT、AST、ALPという部分です。検査によっては、ALTのことをGPTと表記されるものもあります。銅関連性肝炎の疑いのある犬の場合、このALTの正常範囲は21~102(IU/l)のところ、1000以上の測定不能といった数値で出てくることもあります。

 

 そしてもう一つとても重要なことは、兄弟同士でつながりを持ち、この疾患が発症していないかを知っておくことです。また発症が疑われた場合、ただちにブリーダーに報告してください。最初に書きましたが、銅関連性肝炎は遺伝性疾患の可能性が非常に強いですので、同胎や同じ両親を持つ犬たちにも同じ時期や同じ月齢での発症の可能性が出てきます。

 

<診断>

・血液検査

・開腹または腹腔鏡手術による肝生検

 

<治療>

 銅関連性肝炎の疑いがある場合、肝臓から銅を除去するのを助けるキレート剤の内服をしていき、症状が落ち着くまでは低銅食の摂取に変更します。キレート剤の処方は獣医師にしかできませんので、必ず獣医師の指示のもと治療を行ってください。早期に治療に取り掛かることで、命が助かることがあります。ぐったりするような症状が出てからの進行のスピードが速いです。また、キレート剤は一生飲み続けなくてはいけません。

 

<予防>

 とにかく早期発見が重要となってきます。

 私がおすすめしてるのは、狂犬病の予防接種のシーズンのフィラリアの採血検査をすることが多いのではないかと思いますので、その時に若いうちから血液検査の習慣をつけておくことです。そうすれば、1歳、2歳と毎年の数値の変化が記録されます。私はずっとそうしてて、一年に一回の健康診断っていう感じでやってもらってます。

 また、兄弟犬や親せき犬で銅関連性肝炎の発症が分かった場合、かかりつけ医に報告しておくのも大切だと思います。

 

<ダルメシアンの銅関連性肝炎に関する相談>

 まずはかかりつけ医にご相談ください。そして、購入したブリーダーにお問い合わせください。遺伝性疾患の可能性がある以上、繁殖者は飼い主さんに真摯に対応するべきです。

 それでも困った場合、私にご連絡ください。

 

 インスタグラムにて、#銅関連性肝炎 と検索していただくと、いままでの投稿が出てきます。治療中のワンちゃんの投稿など、非常に参考になりますのでご覧ください。

 

 私はブリーダーとして、山口大学の研究に引き続き協力しています。自分の犬などで疑われる症状を呈し治療をしている、またはきわめて疑わしい症状を呈して死亡した犬の情報提供を求めています。もしお話を聞かせて頂くことができるようでしたら、秘密は厳守いたします。また、国家資格を持つ支援相談の専門職としても、真剣に対応いたします。

血統書と血液検査のデータをご用意いただきご連絡いただくとスムーズです。

 

<よくある質問>

◆フードや食べ物のせいでなるの?

ーいいえ、違います。そもそも肝機能が正常なら食べ物の中に含まれるくらいの銅は自然に排出されますが、遺伝的に肝臓に何らかの異常があるから銅が蓄積され続けてしまうという状態になるんです。なので、予防で低銅食を食べさせてからといってならないわけではありません。というか無意味なのでやめてください・・・。

 

◆キレート剤を一回飲めば治るの?

ーいいえ、この病気は治りません。失われた肝機能は元に戻りません。薬を飲み続けることで、肝臓の残存機能を助けます。現時点の知見では、薬を毎日飲み続けなくてはいけないとされています。ちなみにキレート剤は街の開業医で採用しているところは少ないと思います。治療している犬がいるなら別ですが。

 

◆流行っている病気なの?

ーいいえ、違います。銅関連性肝炎は、感染症ではありませんので、どこかに行って感染してたくさんのダルメシアンがかかるわけではありません。しかし、同胎や同じ両親を持つ犬、同じ血統の犬(親戚)では発症してくる可能性が非常に高いので注意が必要です。

 

◆必ず死亡してしまうの?

ーこれは非常に難しい質問だと思います。早期発見し治療につなげる、その間犬の体力が持つ、様々な要因があってこそです。治療開始したらかなりスピード勝負ですので(費用面もかかりますが)、とにかく、飼い主さんの悔いが残らないようにできることはやる、一日一日を大切に。という部分も私は重要視しています。

 

◆遺伝子検査はできますか?

ーできません。ほかに銅関連性肝炎を発症する犬種として、ベドリントンテリア、ラブラドールが知られていて、これらの犬種においては、銅関連性肝炎を引き起こす遺伝子が特定されており、商業的な遺伝子検査が可能となっていますが、ダルメシアンでの遺伝子が特定されていないため、ダルメシアンでは検査ができません。発症が確認されたら繁殖を止めるしかありません。遺伝子の特定が難航している理由は、発症から亡くなるまでの速さだと思います。あまりに早く、原因の特定ができず、遺伝子採取をする前に埋葬されてしまうために、DNA採取が間に合ってないんじゃないかと私は察しています。

 

<参考文献>

Copper-associated hepatitis in a young Dalmatian dog in Japan  山口大学 2021年 

Pedigree study of the heredity of copper-associated hepatitis in Dalmatians in Japan 山口大学 2022年 ※1

 

このホームページ内すべての記事や画像の無断転載(コピペ、スクショ含む)を禁じます。

©2013 Sally Takahashi